誇大広告や煽りマーケティングは時代遅れ?個人事業のための集客戦略

【個人事業の処方箋】シリーズ
個人事業のよくある問題について、背後にある原因と解決策をわかりやすく解説するシリーズです。
持続的に個人事業を成長させるためのヒントをご提供します。
こんにちは!LincWebの水野です。
「たった2か月で300万円を稼いだ方法」「高額商品が売れる集客方法」
――そんな派手な広告コピーを目にしたことはありませんか?
以前はこうした煽り広告とも言える表現が効果を持っていましたが、今では逆に不信感を招くことも増えています。
多くの広告は、「インパクトの強さ」や「誇張された成果」を前面に出すことで、人の注意を引こうとしてきました。しかし、SNSや口コミが広がる今の時代、過度に煽るようなメッセージは信頼を損ね、中長期的な集客にはつながりにくくなっているのです。
この記事では、誇大広告や煽りマーケティングがなぜ通用しにくくなっているのかを整理し、これからの時代に必要とされる信頼を軸にした「エシカルマーケティング」という集客戦略について解説していきます。
「個人事業の処方箋」記事一覧
▶ 第1回 誇大広告や煽りマーケティングは時代遅れ?個人事業のための集客戦略
第2回 売れないLPの原因と失敗を防ぐ3つの設計|LP制作の処方箋
第3回 失敗しないコンサルの選び方|戦略と戦術の違いから理解する
第4回 初めての自動化ツール導入でやりがちな失敗8選|原因と対策
第5回 高額商品が売れない理由と、成功するための条件
第6回 個人事業主のためのブランディング|失敗パターンと正しい進め方
(今後追加予定)
誇大広告がもたらす弊害と4つの典型パターン
誇大広告や煽り広告は、一時的に人の目を引いて売上を伸ばすことがありますが、ユーザーと事業者の双方にとって大きな不利益を生みます。
ユーザー側の弊害
期待と現実のギャップが大きいことが続くと、「どの売り文句も信用できない」という広告全般への不信感に発展してしまいます。結果として、本当に必要な商品やサービスにも手が伸びにくくなってしまいます。
事業者サイド側のリスク
短期的に売上があがっても、一度信頼を失えばリピートや紹介が生まれなくなり、ビジネスを継続することが難しくなります。これは特に個人事業主にとっては重大なリスクとなります。なぜなら、企業であれば人事やブランドを刷新して再出発もできますが、個人事業は自分自身がビジネスオーナーで置き換えがきかないからです。
また、誇大広告はプラットフォームの規制対象にもなりやすく、Stripeなどの決済代行やLINEなどのコミュニケーション基盤からアカウント停止(BAN)を受ければ、ビジネス運営にも影響が出るリスクもあります。
法的リスク
場合によっては法的な問題に発展することもあります。例えば、TSUTAYAは不当な「動画見放題」の表示により1億円以上の課徴金が、ジャパネットたかたは販売実績のない「通常価格」を使った値引き表示により5,000万円以上の課徴金納付の処分を受けています。(※出典参照)
私の知人でも「紹介するサービスの良い面だけを伝え、悪い点やリスクを一切説明しなかった」ことで顧客からクレームとなり、最終的に法的トラブルに発展したケースもありました。
このように、誇大広告は「嫌われる」だけでは済まず、事業そのものを揺るがす深刻なリスクを伴うことを心に留めておくとよいでしょう。
では、具体的にどんな表現が誇大広告にあたるのでしょうか。
次に、典型的なパターンを4つに整理して見ていきます。
① 希少性・緊急性をあおるコピー
「先着10名様限定!」「あと3時間で終了!」
よくあるフレーズですよね。人は「今買わなければ損をする」と感じると冷静な判断がしづらくなると言われており、それを利用したマーケティング手法です。
もちろん、本当に人数や期間が限られている場合には合理的な表現です。セミナー会場が定員50名なら「先着50名」と書くのは自然ですし、適切に運用されている期間限定キャンペーンも有効な販売手法といえます。
しかし、必要以上に「限定感」を演出することには、中長期的に見ると自らの信頼を失いかねない大きなリスクがあります。典型的なのが、次のようなパターンです。
【本日中に申し込めば〇割引き】
合理的な期間限定キャンペーンではなく、極端に時間を制約し、冷静に考える余裕を奪うやり方と言えるでしょう。十分に情報を集めたり質問できないまま意思決定することになり、後になって「こんなはずじゃなかった」となるケースが多いパターンです。特に、高額商品の場合には悪質と言えるでしょう。
恥ずかしながら、私も昔この手口に引っかかったことがあります。その日中にサインすれば大幅割引できるサービスを紹介されて購入しましたが、後になって私の状況では効果を見込めないことがわかり、後悔したことがあります。それ以来、このように成約を急かす業者はお断りするようにしています。ユーザーの信頼を失うとはまさにこういうことか、と感じた瞬間でした。
こういった手法は、最初は売上が上がるかもしれませんが、何度も「残り◯名」や「本日まで!」を繰り返すと、「またこれか」「本当なのか?」いう気持ちが芽生え、中長期的には信頼を失うことになってしまうのです。
② 成果を誇張するコピー
「わずか5日で10歳若返る」「このツールを導入すれば高額商品がどんどん売れます」
こうしたコピーもよく目にしますよね。
もちろん、通常の宣伝活動の範囲で、効果を少し大げさに表現することはありますし、見る側もある程度はそれをわかっています。しかし、その限度を超えた誇張が行われた場合には問題が発生します。
例えば、以下のようなコピーです。
【2か月で月300万稼げるようになった方法】
自分が過去に成功した手法を教える講座やコンサルなどでよく使われるコピーです。確かに提供者はその手法で成功したのかもしれません。しかし、多くの場合、成功要因はその手法ではなく、その人が持っている別のスキルや能力によるところが大きく、再現性があるとは言えません。これは射幸心を巧みに利用したマーケティングであり、誇張された成果を誤認させる典型例です。
このコピーの問題は、再現性がないにも関わらず、あるように感じてしまうところです。このように、再現性があると直接的に言っていなくても、誤認を狙ったかのように書かれている例はよくあります。
また、人は成功事例に強く引き寄せられる傾向があります。「この人がこのやり方で成功したなら自分も」と思ってしまうのです。しかし、背景となる条件、例えばその人のスキルや特性が違えば、同じやり方をしたからといって、同じ結果になるとは限らないのです。
広告と実際の商品とのギャップが大きいと、ユーザーは「思ったほど効果がなかった」「結局、特定の人にしかできない話だった」という不満を持ち、それが事業者への不信感につながっていきます。
さらに、誇張されたコピーは、景品表示法において「優良誤認表示」として違反となる可能性があり、法的リスクを伴います。 広告内容に十分な裏付けがない場合には、消費者庁に違反として処分されている事例も多数あります。(※出典参照)
③ 虚偽・誤認を招くコピー
ここまでは、大げさすぎる、あるいは一部の人の実績を一般化してしまう、といった誇張を行うパターンだったので、まだグレーに感じる方もいるかもしれません。
ただここからは、正直グレーというよりは、ほとんど黒ではないかという手法です。
まず、実態とは異なる虚偽や誤認を招くようなコピーです。これは意図的であるかどうかに関わらず、見た人に実態とは異なる情報を表示しているという意味で、詐欺的とも言える手法かもしれません。以下の例を見てください。
「通常価格10万円のところが今だけ5万円!」
本当に今だけ5万円なら問題無いのですが、実際に10万円で売った実績がないケースは虚偽表示になります。これは景品表示法上もアウトで違法行為なのですが、個人事業主の中にはそれを知ってか知らずか、こういった手法を使う人が後をたちません。
ライブと思わせておいて録画済みの動画を配信
いわゆるエバーグリーンウェビナーと呼ばれる仕組みですが、「次回は19時から開始」と表示していたり、チャット欄にフェイクの書き込みをして「今◯◯さんが質問しました」と見せるような、「リアルタイム感」を誤認させている時点で、ユーザーを欺いていると言えるでしょう。
問題は、言っていることがそもそも事実と違う点にあります。これを「演出の一部だ」と主張される方もいるかもしれませんが、見る側の多くの人が誤認していれば、社会的には虚偽表示とみなされるのです。
実際に、冒頭で示したジャパネットたかたの「二重価格表示」の事例をはじめ、実態調査の根拠が無い「業界No.1」表示や、健康食品の「医師推薦」が架空の肩書だった、といった事例など、処分されるケースは後をたちません。
このような手法を使っていることがわかると、消費者は「この人は信用できない」となり、離れていきます。そして近年は、こうした誤認表示に対して消費者の目も厳しくなりつつあります。もはや「バレなければ大丈夫」では済まない時代になっている、ということを意識しておきましょう。
④ 疑似科学に頼るコピー
最後に、さらに巧妙なケースとして、科学的に立証されていないにもかかわらず、あたかも科学的根拠があるかのように見せかけて信用させる手法を紹介します。
誤解してほしくないのは、科学的ではない領域、例えばスピリチュアルなどを否定しているわけではない、という点です。例えば占いは、利用者も「科学的根拠はない」と理解したうえで利用しているため、問題の無いサービスとして成立していると言えるでしょう。
問題があるのは、あたかも科学的根拠があるかのように誤認させ、信頼感をもたせようとする手法です。
以下に例をあげてみます。
「特許技術を採用」
特許と聞くと、先進的な技術で科学的に効果も立証されているんだ、と思ってしまいますよね。私も技術者として登録特許を何件も持っていますが、まず特許は形式的にはお金を払えば誰でも出願できるため、「特許出願中」には実質的な意味はありません。また、出願した特許が審査を通って登録されるには新規性や進歩性などが必要になるものの、消費者が期待するような効果が立証されているかどうかは関係ありません。
波動を高めてくれる機械
スピリチュアル界隈では、単に精神世界の話だけに留まらず、実在する機械で波動を調整する/高めることを謳ったものもあります。もちろん買う側も、自己満足や判断の後押しのためと割り切っていればよいのですが、問題はここに量子力学や電磁波などの一見科学的に見える言葉でその効果を説明しているケースです。仮に小さく「科学的には立証されていません」と注記されていても、総合的に見れば誤認を狙っていると言えます。
過去には、断熱フィルムで「特許技術を採用」とアピールしていた商品に対して、景品表示法上の措置命令が出されたこともあります。特許取得が事実でも、効果が裏付けられていなければ、「合理的な根拠」とは認められないという判断です。これは「特許がある=効果が証明されている」と誤解を与える表示が問題とされた典型的な例といえます。(※出典参照)
本章では、誇大広告の典型パターンについて解説してきました。共通して言えるのは、誇大広告で売ろうとしている商品は、自分の商品に自信が無いということです。そんな商品はおすすめできませんし、自分自身もそうは見られたくないですよね。継続性のあるビジネスを構築するためには、誇大広告のようなテクニックを使うのではなく、正々堂々と勝負することに立ち戻る必要があるように思います。
そして実際、米国ではこうした誇大広告は消費者に見透かされつつあり、日本でも同じ流れが起きつつあります。次の章では、こういったトレンドについて解説していきます。
調査と海外トレンドが示す「誇大広告の終焉」
誇大広告的な手法は、もともと米国から入ってきたものです。背景にあるのがダイレクトレスポンスマーケティング(DRM)という考え方。これは時間をかけてブランドを浸透させるのではなく、「今すぐ申し込むと特典がつきます!」といった形で、その場で顧客の反応(レスポンス)を引き出すことに重点を置いた手法です。
この分野の第一人者として知られるのが、マーケターのダン・ケネディ(Dan Kennedy)です。彼が広めた「今すぐ行動しなければ損をする」という訴求スタイルは、日本でも多くのマーケターや起業家に影響を与えました。
当時は「限定◯人!」「あと◯時間で終了!」といったコピーが斬新で、多くの人の購買行動を後押ししたのも事実です。米国でも、こうした手法はいまだに使われていますが、規制強化や消費者の目の厳しさから「時代遅れ」とみなす声が増えてきているのです。
米国では「煽り広告=通用しない」時代に
実際に、米国の消費者は誇大広告に対してどのように感じているのでしょうか。各種の調査データを見ると、煽り文句に心を動かされる時代はもう終わりつつあることがはっきり見えてきます。
米国で行われた調査によると、広告業界を「高く信頼している」と答えた人はわずか 8%。圧倒的多数が広告を信頼していないことがわかります。(※1 出典参照)
別の調査では、89% の人が「欺瞞的な広告に罰金を科すべき」と回答し、40% の人が「だまされたと感じた企業との取引をやめた経験がある」 と答えています。さらに 73% の人は「偽情報に関与したブランドを好まない」 としており、少しでも「誤認を誘う匂い」があるだけで信頼を失ってしまう状況なのです。心理学の研究でも、一度だまされたと感じた消費者は、広告やマーケティング全般に不信感を持つとされています。(※2,3,4 出典参照)
加えて、米国では州ごとの規制も強化されており、2024年には詐欺的マーケティングに対する罰金総額が28億ドルに達したという報告もあります。(※5 出典参照)
こうした背景から、米国では誇大広告が次第に敬遠されつつあり、誠実さを重視する方向へのシフトが進んでいると言えるでしょう。
Z世代の動向から見える未来
米国では誇大広告が通用しにくくなっていることを見てきましたが、日本でも同じ流れが進んでいます。
特にZ世代は「生まれたときからネットやSNSが身近にあった世代」であり、広告や宣伝に対する目が非常に厳しいのが特徴です。情報リテラシーが高く、どの情報が信頼できるかを見極める力が自然に身についています。
そのため、誇大広告のような煽りコピーはあまり効果がなく、むしろ「まだこんな手法を使っているのか」と冷ややかに見られてしまうことすらあります。世代の違いがマーケティングの成否に直結する時代になってきているのです。
実際、Z世代の 43% が「広告っぽい投稿を見ると購買意欲が完全になくなる」 と回答しています。SNS広告やLP(ランディングページ)やメルマガなど、宣伝的な要素全般に敏感に反応し、少しでも押しつけがましさや不自然さを感じると、一気に興味を失ってしまうのです。(※1 出典参照)
さらに、約8割 が動画広告やSNS広告を「不快」 と感じており、従来型の「煽り」や割り込み広告は逆効果になりやすい状況になっています。(※2 出典参照)
こうした背景から、Z世代が持つ特徴を見てみましょう。
- 情報の取捨選択に慣れている:SNSの大量の情報の中で育ち、ノイズを見抜くスキルが高い。
- リアルな声を重視する:広告よりも、友人や一般ユーザーのレビューを信頼する。
- 透明性を好む:「本音なのか」「演出なのか」を敏感に見極めようとする。
- 不安をあおる手法を嫌う:過剰な煽りや誇張に対して強い反発を示す。
このように、Z世代は、広告そのものというより欺瞞的な広告を嫌っている のです。逆に言えば、誇張のないリアルな体験談や、きちんと裏付けのある説明には安心感を持ち、信頼できると感じます。
まだ日本全体としては煽りマーケティングが残っているものの、今後Z世代が購買の中心層になっていくことを考えると、米国で起きているのと同じ変化は確実に訪れるでしょう。つまり、「誇大広告で一時的に売る時代」から「信頼を積み重ねて継続的に売る時代」への転換が、日本でも進んでいくと考えられるのです。
今後主流になる集客戦略とは ― エシカルマーケティングの重要性
米国では誇大広告への不信感が強まり、日本でもZ世代を中心に煽り広告は受け入れられにくくなってきています。従来の「一時的に心を揺さぶる売り方」はかえって信頼を損ねるリスクとなっているのです。
では、これからの時代に必要な集客戦略は何でしょうか。
私が重要だと考えるのは、「エシカルマーケティング(≒信頼ベースのマーケティング)」です。エシカルマーケティングとは、「倫理的で誠実な姿勢を軸に、顧客と持続的な信頼関係を築いていくマーケティング」のことです。
近年、エシカルマーケティングは企業において注目されつつありますが、個人事業においてこそ重要になると言えるでしょう。小規模だからこそ、一度の不信感が致命的になりかねず、逆に誠実な関係づくりがそのまま最大の競争優位になるのです。
エシカルマーケティングを個人事業にあてはめると、特に次の4つが重要になると考えられます。
- 価値観の明示:どんな考え方やスタンスで活動しているかを示す
- 透明性:サービス内容やメリット・デメリットなどの情報を誇張せずに正しく伝える
- 根拠性:客観データやユーザーの体験談などによって主張の裏付けを示す
- 長期的関係性:顧客満足やよい体験の継続的な積み重ねにより、リピートや紹介につながる関係を築く
SNS時代は評判が一気に広がるため、悪評は大きなリスクになりますが、信頼の積み重ねはかけがえのない資産になります。これからの個人事業では、「信頼を築くこと」こそが持続的な成果を生む集客戦略になると言えるでしょう。
まとめ
誇大広告のような手法は、短期的には効果があっても中長期的には信頼を失いかねない手法であり、リスクの高いアプローチと言えます。これは本記事で紹介した事例が示すとおりです。
だからこそ、個人事業においては「売るためのテクニック」よりも、「どう信頼を積み重ねていくか」に視点を置くことが重要となります。価値観を示し、商品やサービスの内容を正しく伝え、誠意をもって顧客との関係を構築していく。それこそがリピートや紹介につながり、持続的なビジネスを支えるための基盤になるのです。
「個人事業の処方箋」として言えるのは、誇大広告に頼るのではなく、信頼を軸とした集客戦略である「エシカルマーケティング」を行っていくことが、長く選ばれ続けるためのカギになるということです。
「個人事業の処方箋」記事一覧
▶ 第1回 誇大広告や煽りマーケティングは時代遅れ?個人事業のための集客戦略
第2回 売れないLPの原因と失敗を防ぐ3つの設計|LP制作の処方箋
第3回 失敗しないコンサルの選び方|戦略と戦術の違いから理解する
第4回 初めての自動化ツール導入でやりがちな失敗8選|原因と対策
第5回 高額商品が売れない理由と、成功するための条件
第6回 個人事業主のためのブランディング|失敗パターンと正しい進め方
(今後追加予定)